Essay

水彩画教室を始めた理由

2021.10.13

私は、人に絵を教えるのは、もともとそんなに得意ではありませんでした。

しかしながら、近所の珈琲専門店で、オーナーに頼まれて、一人のお客様に教え始めたのがきっかけでした。

自分は教えるなどできない、と思っていましたが、

一人ぐらいだったらできるかも、という思いで、

一人ならと気楽に始めたのです。

それで、始めてみたら、私が教えられることがたくさんあることに気づかされました。

たった一人の生徒でも、始めたことで、気づいたのです。

できるかなとか、うまくいかないだろうかと思って、教えることを尻込みしていることはよくあるのではないかと思うのです。

私は、どちらかというと、絵を描くのが好きで、

しかし、教えるのはそんなに好きではありませんでした。

私の中で、仕事としては別物、という意識がありました。

しかし、珈琲専門店のオーナーの突然の計らいで、教えることになってしまったのです。

集客もしなかったですし、その珈琲専門店にやってくる常連さんがそのまま生徒になっていきました。

そんなことで、慣れないことが、突然始まり、

なんと高級車での送り迎えまで始まりました。

先生というのは、こんな扱いを受けるということにも、衝撃を受け

そのうち、生徒さんの豪邸に招かれたり、

人生が突然変わってしまったのです・・・。

学生時代、教育実習で、声が教室の後ろまで届かなかったことがコンプレックスとなり、

教員は無理だと悟っていました。

珈琲専門店の隣の小さな控室で、そこなら、狭いので声が届くし

人数も少ないので、これならば、引き受けられるかなと思いました。

始めてみて、

生徒が紙の表裏がわからなかったり

道具がわからなくて、お買い物を代行したり

それで、チップを貰ったりして、喜んでいました。

お釣りはいらないよ、と言ってくれたり、びっくりの連続で・・・

また、「今日は、お話だけでいいわ。」

と言われたり。

今思えば、その時から、「水彩サロン」だったのです。

社長夫人さんは、昼間、色々な習い事で埋めていらして、

日々の寂しさを習い事のスケジュールで埋めることで、

紛らわしていたのです。

なので、私との雑談で、とても気持ちが晴れると言われて

レッスン中、お話だけで終わったことが本当にあったのです。

「こんなんで料金頂けません」と言うと

「お話は、私がお願いしたのだから、これでいいのよ。」

と言われました。

私みたいな画家が話す内容が、とっても可笑しいらしく

日常を忘れられたようなのです。

あまりにも貧乏な画家の裏話と、習い事ができる生徒同士の会話は、かけ離れすぎていたはずです。

実際、会話など成立しようがないと思っていました。

しかし、ある日、生徒の一人が私にこう言われたのです。

『人生の中で、たいていのことはお金で解決できる、

しかし、唯一手に入らないものは、「才能よ」。』と

そう、だから、ニューヨークに行ったときに、チェルシーのギャラリー道りで

「才能はお金で買えない。しかし、貧乏な画家から絵を買うことで、それは解決する」と英語で書いてありました。

そして、お金でなんでも手に入る人たちの前で、水彩紙の表裏から教えて

そして、鉛筆の持ち方から、削り方から、教えて・・・

それは、とても楽しい時間になりました。

それで、本来、教えることが苦手だと思い、先生になることをとても尻込みしていたのですが・・・。

いきなり生徒が3人できて、一気に人生は変わりました。

それから、長い年月、絵を教えることになりました。

あれから20年たちました。

文化教室でもなく、学校の美術の先生でもなく、はじめから水彩サロンで始まったのです。

途中、文化教室にも入ったりはしましたが、初心忘れるべからず、という精神で、少人数制の水彩サロンは、私の中で一番大事な場所です。

上級クラスと間違われることが多々ありますが、そんな意味ではないのです。珈琲専門店で、オーナーが、私になぜ水彩画教室を開きなさいと言ったのかその理由を今も、答えを探して続けているのです。

東京水彩サロンは、10月24日から、はじまることになりたった3人での再スタートです。

学びが頂ける場所だから、開くのです。

私にこれまで、たくさんのチャンスをくれた花の東京に、また毎月行くことになりました。

今は、これまでのたくさんの仕事経験を通して、教えられる内容もたくさん増えたと思っています。

生徒から、絵のお仕事につながったとか、個展のチャンスをもらえたとか、様々ご報告を受けたりもするようになりました。

確かにそれは嬉しい報告だけれど、水彩サロンの原点と目的は、ずっと変わらず、昔のまま、別のところにあると思っているのです。

なぜ、珈琲専門店のオーナーが私に教室を開くように言ったのか。

その本当の意味を、今も探すために

そして、それをずっと大事にするために、

続けています。