Essay

高い外国製の水彩絵の具の落とし穴

2020.08.04

私にとっては、当たり前だと思っていても、驚かれてしまうことがいくつかあるようです。

そのひとつに使っている絵の具について、があります。

質問:絵の具は何を使っていますか?

答え:ホルベイン

日本の多くの水彩画家が、イギリスやドイツ製の絵の具を使っているそうですが、

私は国産のホルベインを長く使っています。

この絵の具を使っているプロの画家は、恐らく少数派ではないかと思います。

そのため、私が使っているのが「ホルベイン」と知って、ショック状態になってしまう方がたまにみえます。

もっと高い絵の具を使っていると思い込んでいるためのようです。

この話は、デビュー当時からあり、時折、使っている絵の具について聞かれます。

しかし、基本的にどこの絵の具メーカーを使うかは、それほど気にしていないので、

どうしてこのような質問が来るのだろうと思っていたのです。

高い絵の具を使っている生徒さんは、過去、もちろんたくさん見えましたし

生徒のほうが高い絵の具を使っているということは、多々ありました。

画材屋に透明水彩絵の具を買いに行き、どの絵の具がいいか質問をすれば、国産ではなく、外国製を勧められるためではないかと思います。また、多くの水彩画の先生が外国製を使っているので、あたりまえに同じメーカーのを買うことになるのだと思います。

品質は、外国製のものがいいという噂はあり、そう信じている方は多いようです。

私は、美しすぎる絵より、どちらかというと温かい、体温のある絵が好きです。

ホルベインは、なぜかほっとする要素があり、心が落ち着くのです。

ここの感覚は、理屈ではないと思うし、10代の時から使っていて、長すぎる付き合いのため

どのメーカーより、馴染みがあります。

使い始めたのは、15歳の時からです。

もちろん、高い絵の具をわざわざ買って、試したことはあります。でも、私が使いたいのはこれとは違うと思ってしまったのです。

電化製品を選ぶ時、いくつかの弱点があっても「好き」という感情がある場合、その欠点すら飲み込んで、側に置きたいと思ってしまう感情と似ています。

それは、いろいろな噂や、悪評を耳にしても、惚れている場合は、それを長年使い続けるうちに、最大級使いこなすことができ、ある種の特徴のある絵になっていくという利点があるかもしれません。

私のようなホルベインへの個人的な感情は抜きにしても、実は、透明水彩に関しては、高い絵の具に買い替えれば、即座に美しい絵になるのかというと

実は、そうではなかったりするいくつかの落とし穴があります。

透明水彩そのものが、他の絵の具より、そもそも使いこなすのが難しい難易度の高い絵の具ですし、

2色までの混色は綺麗ですが、3色めから徐々に色が濁り、4色目からは完全に色が濁り始めるという厄介な絵の具です。

つまり、必要な色を見極め、最小の混色で、最小のブラッシュコントロールで描き終える必要があるのです。

最小とは、12~18色基本セットの中では、2色までです。

かつて、青と赤を混ぜると紫になるということを知らず、長年描いていた方が見えました。

また、青と黄色を混ぜると緑色になるということを知らず、長年描いていた方が見えました。

これは、笑い話ではなく、文化教室で教えているのは、この程度ということを知った上で、

習いにいかないといけません。

つまり、色については何も教えてくれないということを前提にして、その受講料に納得して足を向けることが必要なのです。

それでは、なぜ、色について教えないのか・・・・

それは、大人の絵の教室ですし、基礎すぎて、そこが欠落しているとは先生が気づかないからです。

通常、こういった美術の色の学習は中学校ぐらいから始まり、だいたい18歳で完了し、芸大の試験に挑んでいくという形が一般的かなと思います。

なので、有名な画家の絵に見惚れて習いに行く前に、まず、中学校の美術の教科書を開くことが重要だったりします。

ここの中学校で習っているはずの色の知識が多くの場合欠落している現実に、本当にびっくりし、その後、水彩レシピや、水彩ジャーナルの中で、さり気なく記述したりしました。

なぜなら、今更、中学校の美術の教科書を開くということに抵抗があるかもしれないと思ったからです。

それでも、「彩度、明度、反対色、トーン」という言葉を使うと、ほとんどの方の頭がフリーズしてしまうようです。

この段階で、高い絵の具に手を出すと、絵はどうなるでしょうか・・・・

そう、絵は、色の知識なしには描けないので、

そのため、どんなに高い絵の具を買っても、実際は使いこなせず、やはりいつもの濁った絵になってしまう確率が高いのです。

これが、高い外国製の水彩絵の具の落とし穴なのです。