Essay

ブドウ園の葡萄を描く

2020.05.27

花より果実を描くことのほうが、実はとても好きだったりします。
そして、リンゴ園や、ブドウ園に実際に訪れて、そこで出会った不ぞろいの葡萄を描くのです。
葡萄は完熟するまで、最初はグリーンで、それから、少しずつ色々な色に変化し始めます。

日本のブドウ園には2種類あり、果物として食べるための葡萄と、ワインにするためのブドウ園とあります。ワインにするためのブドウ園は低木の場合が多いですが、果物として出荷するためのブドウ園は葡萄を頭の上に実らせる高木です。ずっと上を向いて作業するので、とても大変な作業です。

しかし、どの葡萄でも実際はワインにすることができるそうで、この違いは厳密にはないようです。

葡萄に惹かれた理由のひとつに、葡萄の美しい色にあります。翡翠、赤、黒、青と宝石のように一粒一粒がとても美しいと思うのです。そして、完熟したお知らせでもあるブルーム現象も描くのが好きなのです。

それで、葡萄が完熟して甘い匂いがしてくると、スズメバチがあちこちからたくさんやってきて、人間と蜂の戦いが始まります。蜂は、葡萄の一粒に潜り込んで、ほとんど体が葡萄の中に入ったまま美味しそうに食べます。このブドウ園を訪れるまでは、スズメバチが葡萄が大好物だということを知らず、この様子を見て、本当に驚いてしまったのです。それで、蜂のための葡萄のデザートの絵を描くことを思いつき、数点絵にしたりしました。

それで、ブドウ園では、次にトンボが大量に飛んできて、なんと、蜂を捕まえ始めたのです。

蜂の天敵はトンボで、つまり、トンボは蜂を捕まえてくれるので人間にとってはとっても心強い味方のようです。

それで、葡萄の絵に、トンボを一緒に描き加えることにしました。
トンボは、前に向かってしか飛ばないという意味で開運としても昔から親しまれているそうです。葡萄とトンボは、絵の中で定番の組み合わせのようです。

名古屋は、特に葡萄の絵が大変人気で、名古屋高島屋での作品展の折、葡萄の絵がすべて完売してしまったことがあります。

毎年ブドウ園に出向いて、珍しい葡萄を探し、毎年描いているのですが・・・

お店に並んでいる葡萄ではなく、ブドウ園の葡萄を特別にお願いして切って頂いたりしています。

描きたいブドウは、店頭の葡萄とは違うことがあるためですが

色とりどりのブドウは、まるで宝石のようです。

スーパーなどの市場には出回らないブドウもブドウ園には色々あります。

そのひとつに、ネへレスコールがあります。

食べるだけではもったいない、その美しい葡萄は、まるでシャンデリアのようです。

いつも伺うのは、ブドウ園の中でも一番奥にあるマルタ園です。

数あるブドウ園の中で、どうして、そこになったのかというと

そこには、「ネへレスコール」があったからです。

晩秋、いつものように、ブドウ園に出向くと、この巨大なネへレスコールがそのまま干してありまして・・・・・

房のまま、50㎝以上ある巨大なレーズンになっていたのです。

1粒食べてみると、とても美味しい。

これを頂いて帰り、しばらくは、アトリエにそのまま干していました。

レーズンはそれまで好きな食べ物ではなかったのですが、

このぶっとんだレーズンのお陰で、とても好きになりました。

葡萄を干したら、「レーズン」

そんな当たり前のことが、とても腑に落ちたのです。

このブドウ園では、葡萄をピザにトッピングして窯で焼いてくれます。

まさにデザートピザですね。

その特殊な長さと美しさに感動して描いた絵「ネへレスコールと青い果実」ですが、一昨年、ネヘレスコールの木を切ってしまったそうで、今はなくなってしまいました。

今は幻となってしまったネへレスコール・・・・

連作2作描き、1作目「トンボとネヘレスコール」は、名古屋タカシマヤで売約となり・・・。

(その後、上の絵「ネヘレスコールと青い果実」は、横浜タカシマヤで2019年に売約となりました。)

この世のものとは思えないほどに美しくゴージャスなネへレスコール

ところで、2018年のフランスのデザイン業界のトレンドカラーは、「グリーン」だそうです。

この絵も、様々なグリーンのガラスに拘り、グリーンの世界を作りました。そこに、ほんの少し、赤を加え、白い布に、巨大なネへレスコールを寝かせて、そして、ガラス花瓶にシャンデリアのように葡萄を飾りました。

私の絵の制作は、ブドウ園に行くことから始まります。

いつも、現地取材し、農園で見つけた色々な果物たちを探します。

頂いた葡萄を、大事に持って帰り、素敵な布や燭台に乗せて飾ってみます。

有機野菜を描き始めたころと変わらず、農地に出向くのはとても好きなのです。

葡萄園では、「ああ、画家さんがやってきた」と言ってくれます。

そして、ブドウは、画家にとって、格好のモチーフなのか、他の画家さんもブドウ園に出向いているようです。

ところで、葡萄を育てるのは、とても大変な仕事です。

なぜなら、日本のブドウ園は、頭の上に実らせるからです。

首が痛くなるし、いつも上を向いて作業をするのは、とても大変なのです。

そして、やっと実ったころに、「スズメハチ」の襲来・・・・・

また、ブドウは、勝手に発酵し、ワインになるのだそうです。

密造しなくても、自然にできてしまうから、、、、とブドウ園の方が笑っていました。

ワイン用の葡萄というのは実際はないそうで

どのブドウもワインになるそうです。

それまで、ワイン用の葡萄があるとばかり思っていた私にとって、

ぶどう園の話はとても面白かったのです。

このほか、幻の葡萄「リザマート」や

「翡翠」などが広大なブドウ園の一角で美しく実っていました。

さて、これは耳が痛い話かもしれませんが、画家と、農家は、とても共通する点があるんだそうです。

それは、自分が作ったものに値段をつけることができないことです。

農園で売られている葡萄の何倍もの値段で、百貨店で売られていたりするそうで・・・

さて、私の葡萄の絵は、ブドウ園でのファンタジーです。

ハチが飛んで来て、大きく実った葡萄を独り占めしているのを見て描いた連作があります。

実は、葡萄の絵に関する話は、あまりに長くなってしまったため、画集「植物からのメッセージ」で省かれてしまいました。

この話の続きを知りたい方は、是非、ブドウ園を訪れてみてください。