Essay

NOBLOT INK PENCIL 705

2021.01.26

「アプリコットファンデーション~Blue Line」

最近の1か月間で、オンラインショップアクセスランキング1位となった「アプリコットファンデーション~Blue Line」の作品です。

 この作品は、ファーバーカステル社製 Noblot Ink Pencil705と透明水彩絵の具を使って描いた作品です。通常メーカーはサンフォードだそうですが、私が持っているのは確かにFarber Castellと印字してあります。

実際に使用したNoblot Ink Pencil705

これの理由に対して回答できる方が現在いないため、ここにも、謎として書くしかありません。

どちらにしろ、現在、国内では流通していないため、手に入れることが困難な鉛筆です。

 アメリカの鉛筆の歴史の中でも、Black Wing 602と並ぶ銘品として知られ、世界オークションで、高値で取引されている鉛筆です。

 数年前、とある額縁屋の社長さんから頂いたものの、この鉛筆のよさを最大限引き出せる方法が見つからず、1点、たしか梅の小さな絵を描いた後、それほど魅力的に思えず、しまったままになっていました。

つまり、鉛筆の芯にインクが仕込んであり、濡れるとそのインクが染みだすというのは画期的であるけれど、必要な場面がない、ということだったのです。

しかも、ブルー・・・・ですから

しかし、今回、私は賭けに出たわけです。

長いアメリカの鉛筆の歴史の中でも、他に類がないユニークな鉛筆で、ひとつ自分の作品を作ろうと思ったのです。

通常、絵の中で、鉛筆の線は、最後消すことはあっても、ブルーに変化することはあまり気持ちが進まなかったのですが、しかし、あえて取り入れることにより、強制的に新しい絵が生み出される可能性に賭けてみることにしました。

鉛筆の線が、濡れることにより、次々とブルーのインクが染みだしてブルーラインに変化する瞬間はとても高揚感があり、それだけで、エキサイティングで、アートセラピー状態にもなりえます。上の絵は、右下の濡れていない状態の鉛筆ラインと左の濡れて青く変化した状態の違いが、とてもよくわかる写真だと思います。

「青く滲んだ線が、とても美しい」と感じ、そして、この絵の副題を「Blue Line」と名付けました。

 絵は、自分自身のマイナスの感情を吐き出してくれますが、青いラインが、私の心をより安定させてくれました。そして、邪魔な青い線ではなくなり、他のすべての色と交じり合う美しいブルーとなってくれました。

青い絵を会議室に飾ると、とても冷静な判断ができると色彩学では言われています。寒色系の色を取り入れることにより、精神を安定化できるのかもしれません。この絵は、暖色と寒色をうまく融合させ、両面を持たせる絵となりました。

 時には強いブルー、時には、消え入りそうな薄いブルーと変化を続けながら、何か神がかったような、不思議な旅をしているような気持ちにもなりながら、何とも言えない高揚感が続きました。脳に幸福感がやってきたのです。

モチーフを描き終えたところ
左端の鉛筆Noblot Ink Pencil705
左から2番目の筆 京都景雲堂光峰大

通常、私の絵は、鉛筆の線を最後にすべて消してしまう画法です。

鉛筆を描いていないと勘違いされている面も多いと聞きますが・・・

しかしながら、これは、確かにそこに鉛筆の線があったという痕跡を淡いブルーで残すのです。

ブルーという色で、痕跡の美しいプレゼントみたいになり

私のドローイングに意味を与え、そして、新しい価値へと押し上げてくれる気がしたのです。

 私の絵の素描の仕方は、実はとてもユニークで、通常のデッサンの方法とは違います。そのことに気づいたのは、最近ですが。

 水彩技法のビデオや動画の中で、他のプロの画家に一番驚かれたのは、意外なことに水彩技法ではなく、ドローイングの仕方でした。

 デッサンを習ったことがない方にとっては、ユニークさにも気づかないかもしれません。

 手で鉛筆を立てて縦横の割合を測るわけでなく、いきなりブーケの中の花のひとつから描きだし、そして、画面にすべてのモチーフを描き終えるのです。こういった描き方は、芸大受験向けに、根気よく測ることを強く指導されてきた方にとっては、ショック状態になりかねない描き方です。しかし、歴史に残るようなプロの画家の制作プロセス動画を注意深く見ていれば、そう例外でもないことに気づくかもしれません。

 気持ち悪いほどに目測ができるのは画家の特徴でもあり、そして、時折動体視力を持っていることも多々あります。また、わずかな色の違いを見分ける能力を持っていたりもします。しかし、近年、色彩判別能力は、個性として認められ、色盲でも芸大に入れるようですが。

 つまり、幾通りかの色の判別パターンがあることがわかってきて、あなたの見える色と、隣にいる人が見える色とは、違うことがわかってきたのです。

それに私が気づきだしたのは、10年以上も続けている水彩レッスンでの生徒の反応においてです。自分と生徒との色の見え方が違うことに気が付いたからです。

人によって見える色と見えない色があり、それは色の識別能力が劣っているというより、最初からその色を感知できない目のしくみがある、ということなのです。

少し話がそれましたが、肝心の「青」が識別できない方も見えるかもしれないと思い、この文章を入れました。

話を戻すと、この異常な私の目測力は、花屋さんでも「習う必要がない」と言われてしまい、実際、どこの花屋においても、アレンジメントを習うことができませんでした。それは、一回のテストで、見本通りに活け終えてしまったからです。

また、水彩紙を斜めに設置するわけでもなく、水平にしたまま、モチーフとの距離もとらず、描いていくという間違いだらけのドローイング方法で、寸分の狂いもなく素描を終えるのを見てしまったら、

また、ガイドラインの鉛筆線が一本もないことに気が付いたとき、

きっと、ぞっとすると思うのです。

 この描き方を、たぶん10年以上、あたりまえのようにやってきて、これまで、プロセスを見せることもなかったため、それがものすごく不自然に見えることに気が付かなかったのです。

 しかしながら、水彩ビデオの初級編、または、ビデオ1と2は、初心者向けに、花の位置の「あたり」を入れるシーンがあります。これは、絵を描く初心者のために、撮影時スタッフからそうするようにアドバイスされたため、そのシーンがあります。

水彩ビデオ1https://ayakotsuge.shopselect.net/items/1006679

水彩ビデオ2https://ayakotsuge.shopselect.net/items/1007658

 ところが、本当の制作では、余分な鉛筆の線を残さないために、出来上がりのラインのみいきなり描いていく方法で、エスキース(下絵)もなしに描く画法を確立してしまいました。

そして、そうやって描いたたった1本の鉛筆のラインを、最終すべて消します。

 しかし、このNoblot Ink Pencilは、その痕跡を見事に昇華してくれたように感じたのです。

 アメリカの歴史的な銘品であるこの鉛筆が、私の元に偶然やってきた幸運を感じています。

この作品の制作動画と詳細はこちらです。

タイトル「Mosaic」
大連で見つけた白黒の鳩
Noblot Ink Pencil705と透明水彩